2007/7/29
ディスカウントTOBは買いチャンス
TOB(市場公開買付)と聞くと、株価にプレミアムを乗せた買付を連想すると思うのですが、全てがそうとは限りません。
ディスカウントTOB(マイナスのプレミアム)となる、市場価格より低い値段で買付を行う場合があります。
この時に、最近の
ソーテック(6829)
でも起きているのですが、株価はディスカウントTOB価格にサヤ寄せして低迷する傾向にあります。しかしながらディスカウントTOBの意味を考えると、安値買いのチャンスではないでしょうか。
上場会社で経営権を握っている大株主が、なんらかの事情により発行済み株数の1/3以上の株式を譲渡し、経営権を手放したい場合、希望する買い手に、株式を直接売却してしまいたい所なのですが、この方法は証券取引法に反してしまい、実施することはできません。
証券取引法では、市場外を利用して著しく少数の者(60日間で10名以内)からの買付けで、買付け後の所有割合が3分の1を超える場合は、公開買付が義務付けられています(いくつか例外事項はあります)。これは、一般の投資家に売却の機会が与えられぬまま、今までと違う大株主に経営が支配されることによって、一般投資家が不当な扱いを受けるような事態を防ぐためです。
従って、
大株主を移動させたい場合、形式上TOBの手法をとる必要があるのです。
もしこの時にTOB価格にプレミアムを乗せると、一般投資家が応募してくる可能性があります。これを排除するためディスカウントTOBを実施するのです。
こういった事情を考慮すると、必ずしもディスカウントTOBの時に律儀にTOB価格にサヤ寄せして株価を下落させる必要はないことが分かります。ただ、一番の内情を知る大株主が安く手放すことに対するマイナスのイメージは確実に残ります。
では実際にディスカウントTOBは大株主の移動用として利用されているのかを確認するため、2006年、2007年において、
過去3ヶ月間の終値平均よりも20%以上のディスカウントTOBを行ったケース
について調査してみます。
TOB発表日
コード
銘柄
買付者
プレミアム
大株主移動
2006/2/28
3428
サンポット
日本みらいキャピタル
-20.5%
67%
2006/8/8
1913
旭ホームズ
セボン
-51.7%
88.93%
2006/9/12
5977
コマツ電子金属
SUMCO
-29.4%
61.93%
2006/9/20
7428
江戸沢
ジー・テイスト
-46.1%
56.7%
2006/12/8
9971
カウボーイ
合同会社月光(GS)
-29.6%
47.77%
2007/3/2
6519
エネサーブ
大和ハウス工業
-23.5%
52.07%
2007/4/19
7622
焼肉屋さかい
ジー・コミュニケーション
-80.0%
51%
いずれの場合も、TOB後も上場を維持し、大株主の移動することを目的としたTOBばかりです。サンポットは現在上場廃止になっていますが、これは翌年に行われた長府製作所よるプレミアムTOBによるもので、上記ディスカウントTOBによるものではありません。
次にディスカウントTOBによる株価への影響を見てみます。まずは今日現在の株価から。下記「平均株価」は、TOB発表直前までの過去3ヶ月間の終値平均です。
コード
銘柄
買付者
平均株価
TOB価格
現在の株価
3428
サンポット
日本みらいキャピタル
503
400
370(*)
1913
旭ホームズ
セボン
234
113
250
5977
コマツ電子金属
SUMCO
3,399
2,400
8060
7428
江戸沢
ジー・テイスト
427
230
260
9971
カウボーイ
合同会社月光(GS)
341
240
185
6519
エネサーブ
大和ハウス
481
368
733
7622
焼肉屋さかい
ジー・コミュニケーション
501
100
253
(* サンポットの株価は長府製作所によるTOB発表直前の株価)
ファンドに買収された2銘柄を除いてディスカウントTOB価格を上回っています。これは買付側が「安い費用」で「相互に効果がある」会社を得たことによって、比較的容易に利益を伸ばすことができるためではないでしょうか。一方でファンドはこの「相互に効果」が実現できず、少々時間がかかっているようです。
もう少し短期的に株価の推移を見てみます。ディスカウントTOB発表直後の株価の推移です。
結構バラバラな動きですね。ディスカウントTOBの発表をどう評価してよいのか消化するのに時間がかかっている感じです。それでもパターン化を試みると、発表日以降に急激に株価が下落し、75%水準以下まで達すると、リバウンドする傾向にあります。また、90%水準以下に達している銘柄は、徐々に株価を切り下げています。
前回の投資戦略に引き続き、サンプル数が少ないで精度は欠きますが、ここで結論を述べてみます。
結論
:
長期的には、ファンドから買収される場合以外のディスカウントTOB銘柄は安値買いのチャンス。特に大手企業が買付側となった銘柄はねらい目。発表直後は株価が低迷する傾向にあるので、あわてる必要はない。また、発表後急激に株価が下落し、75%水準以下まで達した銘柄は短期リバウンドのチャンスがある。+10%程度は狙える。
ここで重要なのは「ディスカウントTOBは大株主の移動用に利用される」ということです。全株買取の子会社化には利用しません。
参考:
・
日本証券新聞
・ビバルコジャパン株式会社「
TOB(公開買付)プレミアムはいくらが妥当か?
」
・
「証券取引法等の一部改正に伴う証券取引法施行令等の改正案」の公表について
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編集後記(From the Editor)
今回の調査の最初の狙いとしては、ディスカウントTOB発表後の株価の値動きに規則性があり、それを投資戦略として発表するつもりでした。しかしながら実際に調べてみると、それほど規則性があるわけではないことが分かりました。
投資戦略として使える部分はものすごく限られてしまうのですが、このままボツ企画としてお蔵入りさせるのはもったいないので(笑)、やや知識をメインとするような形で発表することにしました。
来週はプライムローン問題と、参議院選挙自民党敗退によって、株価がどう反応するのか、為替は曲がり角を迎えたのか... この大波をうまく利益へと転換させたいものですね。
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くれぐれも、自己責任の上で判断してくださいね!
GOOD LUCK!