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2007/1/21
資産を最大限に増やすための株の買い方
- ケリー基準、オプティマルfの実践 -

株価が上昇すると「もっと株を買っていればなぁ」、逆に急落すると「しまった、ちょっと買いすぎたか」と思ってしまいます。得することも、損することもある株式について、本当はいくら買えば、資産を最大限に増やすことができるのでしょうか。今回はこの問題にチャレンジしたいと思います。

「一体いくら株を買うべきか」については、諸説いろいろ言われています。一番ホットな話題となりやすいのは「信用は使うべきか」「資産は分散すべきか」です。どちらの論点に立っても経験論や比喩論が多く、合理的(数学的)な根拠はあまり示されません。

そんな中、数学的な手法でこの問題の解決する「ケリー基準(別名 オプティマルf)」の存在を知りました。論文の世界において、この手法が「本当にベストか」という点について、まだ議論の余地があるようですが、現時点ではかなりベストに近い方法のようです。

「ケリー基準」をざっくり説明すれば、「資産の何パーセント分、株を買うべきか」に対して答えを与えてくれるもので、同時に「その場合、一体どれ位の割合で資産が増加するか」にも答えてくれます。

そこで今回は「ケリー基準」を利用し「資産を最大限に増やすための株の買い方」を考えてみたいと思います。「ケリー基準」の数学的な根拠については、専門書にお任せし、ここでは取り扱いません。

かなり前置きが長くなりましたが、早速実際の例を使って、ケリー基準を求めてみたいと思います。まずは投資戦略「落ちてくるナイフは計画的につかみ取れ!」でご紹介した方法を用いてみます。

話は前後しますが、ケリー基準を算出するにあたり「確率分布」の「標本」が必要です。株式で言えば「過去の実績」です。そこで「落ちてくるナイフは計画的につかみ取れ!」では、ページの最後の方に日経平均先物を利用した場合の「過去の実績」を掲載されていますので、これを利用します。

ケリー基準の算出方法を簡単に述べると、まず「過去の実績」を全部用意します。その中で最も成績が悪かった数値を選び出し、その値で「過去の実績」を割ります。そうすると一番低い値が「-1」となる標本が出来上がります。

次に、それぞれについて (1+[標本値]*f)^1/[標本数] の数式を用意します。エクセルで言えば POWER(1+[標本値]*f,1/[標本数]) です。今回は32個の実績数がありますので、POWER(1+[標本値]*f,1/32) となります。

その次に、これらを全部掛け合わせた数式を用意します。エクセルで言えば、PRODUCT(E1:E32)です。そして、f について、0 から 1 の間の値を代入し、このPRODUCT が最大となる値を探し出します。

過去の実績 最小値が"-1"に調整 f=0 f=0.01
-21.59% -0.9956 1 0.999687365
8.85% 0.4083 1 1.000127342
4.48% 0.2065 1 1.000064467
3.72% 0.1717 1 1.000053612
7.44% 0.3432 1 1.000107072
0.81% 0.0372 1 1.000011623
4.52% 0.2083 1 1.000065028
2.77% 0.1278 1 1.000039913
-21.68% -1 1 0.999685976
5.29% 0.244 1 1.00007616
3.14% 0.1448 1 1.000045218
4.64% 0.2141 1 1.000066837
9.20% 0.4242 1 1.000132291
3.45% 0.1593 1 1.000049743
5.19% 0.2392 1 1.000074664
-14.45% -0.6665 1 0.999791043
1.71% 0.0788 1 1.000024616
2.78% 0.1282 1 1.000040038
2.53% 0.1167 1 1.000036448
8.10% 0.3737 1 1.00011657
5.01% 0.2311 1 1.000072138
3.11% 0.1433 1 1.00004475
4.28% 0.1972 1 1.000061566
3.80% 0.1754 1 1.000054766
4.75% 0.2192 1 1.000068427
2.69% 0.1242 1 1.000038789
2.40% 0.1105 1 1.000034513
4.40% 0.2029 1 1.000063344
3.72% 0.1717 1 1.000053612
5.31% 0.2448 1 1.000076409
2.11% 0.0974 1 1.000030423
2.41% 0.1113 1 1.000034763
積(PRODUCT) 1 1.000929772

もうこのあたりで、十分頭が痛くなってきた頃でしょうから(笑)、f と PRODUCT の結果の表を提示します。f が「0.51」の時に、最大値「102.8%」という結果が出ました。


これはどういった意味を持つかと言えば「最大で51%の資産を失うような賭け方をすれば、1回賭ける毎に 102.8% つまり 2.8% ずつ資産が上昇し、それが最良の賭け方である」ということになります。

最大 51% の資産を失う ... 100万円であれば、51万円を一気に失います。今回の最も成績が悪かったのは、-21.68% でしたので、このときに資産の 51% を失うように計算(0.51/0.2168)すると、元手の2.35倍、つまり「235万円賭けなさい。そうすれば、賭ける毎に、手元が2.8%ずつ上昇するから」ということです。

「235万円賭ける」という指示は、にわかに信じがたい指示ですが、最悪でも -21.68% の損(51万円の損)ですから、元手を失うわけではないのです(もちろん計算上の話です)。235万円賭けるには、信用もしくは先物を使えば実現できます。

では実際に、元手が100万円から始め、常に元手の2.35倍を賭けた場合の資産増加曲線を見てみましょう。理想線は、毎回2.8%きっかり利益が出た場合の曲線です。


何度か50万円を切ることがありましたが、最終的には2.8%の利益まで伸びています。いつも資産の一定割合を賭けるので、最終的な利益は、損失と利益の出現順番に影響されません(最大ドローダウンは変わります)。

しかしながら、ケリー基準を実際の株式に適用する場合、資産管理上いくつか問題が出てきます。
  1. ドローダウンが激しい。ケリー基準では、資産が50% 以下になる確率が50%、10%になる確率が10%ある(つまり資産がN%以下になる確率はN%)。
  2. ドローダウンが激しくなると、資産が最低賭け金に満たない場合が出てくる。例えば、ドローダウンによって所持金が10万円以下になると、手法が適用できなくなったりする。
  3. 額による「損きり」をしない手法の場合、途中経過で更に大きくドローダウンが発生する場合がある。
これらを避けるための方法として、2つの考え方があります。ひとつは「控え目ケリー(fractional Kelly)」と呼ばれる方法です。ケリー基準そのままでは厳しいので、ケリー基準で示された値の半分だけや、1/3だけといった割合を減らして賭ける方法です。半分ケリーでは、資産が半分になる確率は1/8、1/3ケリーでは同様に 1/128 にまで抑えることができます。

そうしてもうひとつの方法は、「部分ケリー」と呼ばれる方法です。例えば、元手が100万円あったなら、50万円は確保し、50万円分だけケリー基準を適用するといった考え方です。途中のドローダウンが大きくなった場合にも対応できます。

ドローダウンが発生する確率を抑えたい、そして最大損失で損きりする場合には「控えめケリー」を、途中のドローダウンも考慮する場合は「部分ケリー」を使うと良いと思います。

それでは実際に「控えめケリー」で半分(50%)、「部分ケリー」で50万円を確保しながらケリー基準を用いた場合のグラフを見てみましょう。どちらもドローダウンをうまく抑えていることが分かります。その代償として、利益も減ります。


ここまで分かったところで、また次の問題にぶつかります。それは「株は購入単位が決まっているので、ケリー基準によって指定されたちょうどの株数が買えない」ということです。

この場合は「控えめケリー」「部分ケリー」に見習って、賭け金の少ない方に合わせるのが安全です。さらにもうひとつの理由として、もう一度ケリー基準のグラフを見て欲しいのですが、賭け金を半分にしても、儲けは半分よりも多く出るのです。



一方で多く賭け過ぎると、急激に利益が少なくなり、ある一定以上になると、利益が消え、損をしてしまうのです。あまりにも損失が大きいと、そこから復活ができなくなってしまうためです。

今回の場合では、資産の2.35倍がケリー基準によって導き出された最適な解でした。従って、100万円の元手であれば、日経225mini 1枚(価格が17,500として)が限度です。2枚で利益がほぼ0になり、3枚以上賭けると破産します。

株式では信用を利用しても限度があるので、そこまで買えないことが多いですが、先物だと簡単に超えてしまいます。先物を長期で持つ場合には、資金配分がとても重要であることがわかります。本来プラスの取引はずが、賭けすぎるとマイナス側へと転じてしまうからです。

さてもうひとつ具体的な例でいきましょう。「斉藤手法」についてです。これについても「過去の実績」が必要です。ぶれが大きいので、いつの実績を使うのかでずいぶんと結果が違ってくることも予想されますが、今回はしっかりと記録が残っている2006年10月16日のデータを使ってケリー基準を求めてみます。



その結果、なんと f は、0.96(最大元手の96%を1回で失う) で、1回あたり194%の利益が出ることが分かりました。これを成し遂げるには、元手の9.36倍を賭ける必要があるとの計算結果が出ました。

いくら何でも、元手の9.36倍賭けるのは不可能です。そこで信用を使ったとして、元手の2倍を賭け続けた場合、資産がいくらになるかをグラフにしてみます。



左の目盛りの単位は「億」です「万」ではありません。計算上55回続けると、資産は1,600億円を超えます。宝くじを買うよりよほど簡単に「億万長者」の出来上がりです。競馬やパチンコなんてやっている場合じゃないですよね(笑)。

以上のことから「落ちてくるナイフ」や「斉藤手法」など、期待値がプラスとなる投資戦略において、資産を最大限に増やすための購入株数は、意外にも、信用を使っても届かない位置にある可能性が高いのです(試しに「株主優待買い」も簡易的に調べてみたら、元手の16.6倍賭けなさいとの結果でした)。

最後に一言「お約束」を。ここで記載された内容については、くれぐれも自己責任においてご利用下さい。いつライブドアショック時のような、計算外な事態が発生するかは分かりませんから。

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Special Thanks:
 ・はぐれ雲さん
 ・booboowamboさん


参考文献:
 ・\∞ さんのページ[ケリー基準] : 超オススメ。今回はここのページを随分参考にしました。
 ・投資家のためのマネーマネジメント: ケリー基準について深く学びたい方にオススメ。読みこなすには、数学の知識がそれなりに必要です。数学が苦手な方は厳しいかも。
 ・天才数学者はこう賭ける―誰も語らなかった株とギャンブルの話 : 数式を使ってお金儲けを試みた天才数学者たちの伝記物。


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編集後記(From the Editor)

私は今までずっと「資産を増やすための投資戦略」を追い続け、その研究成果を掲載してきました。しかしながら、ひとつ重要なことには触れていませんでした。それは「いくらその株を買えばいいのか?」についてです。なぜ触れなかったかというのは明白で、資産を最大限に増やすための賭け方を、私は知らなかったためです。

最近、はぐれ雲さんから「ケリー基準」というものを教えてもらいました。米国ではかなり有名らしいのですが、説明が難しいこともあるためか、日本ではあまり知られていません。それならば、せっかくなので、投資戦略で取り上げてみようと思ったのです。

今回掲載した「ケリー基準」が実践で利用できるか? というと、なかなか難しい所がありますが、「本当はどこまで賭けるといいのか、賭け過ぎはどこからか」を知っていると、何かと便利だと思っています。

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くれぐれも、自己責任の上で判断してくださいね!
GOOD LUCK!

最後に、今回計算に使ったエクセルシートを公開します。ケリー基準算出の参考にして頂けたらと思います。ダウンロード後、「はじめに」をお読み下さいませ。内容について万全を期していますが、保証の限りではありません。それをご考慮の上でご利用願います。

ケリー基準 - 調査結果

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