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MSCI

2005/5/22
MSCIを完全攻略する!

MSCIとは、ざっくりと言ってしまえば、TOPIXの国際標準版ともいえます。この指数の概要について、MSCIのホームページにて、かなりの情報公開がされているのですが、ドキュメントが全て英語で記述されているため、なかなか近寄りがたく、ハードルが高い印象があります。

しかしながら、大規模なIPOのすぐ後や、四半期毎の見直時期では、採用・除外基準にある銘柄の株価は大きく変動するため、そこに多くの投資チャンスがあるのは事実です。この5月についても、採用銘柄および除外銘柄について、発表直後に動きがありました。

そこで今回は、MSCI について情報公開がなされている英語文書の内容を読み解くことで、投資ハードルを低くし、今後の投資戦略のための基礎資料として役立てることにしましょう。

(実は、MSCIの中には、TOPIX同様、いろんな指標があります。ここでの MSCI は「MCSI Standard Index Series」のこととして記載します。Standard 以外にも、smallや ヘッジファンドなどの指標があります)

MSCI について知るには、Webページで公表されている文書「Standard Index Series Methodology」でほぼ事足ります。丹念にチェックし内容を理解することが全てと言っても良いでしょう。しかしながら、英語の文章ですので、日本語の説明を加えていきたいと思います。

ここで「Standard Index Series Methodology」の文章を開いて、一緒に見ていただけたらと思います。もし私の解説で少しでも疑問がある箇所が出てきたならば、原文をじっくりと読んで下さい。私が間違っている可能性もありますし、見逃している項目も見つかるかもしれません。

では始めてみましょう。重要と思われる章のみピックアップします。それでも長文となりますが、ご了承下さい。


・P2, 1 全体概要

重要な記述は、後半の「The MSCI Standard Index Series adjusts で始まる部分です。「それぞれの国の産業グループ(Industry Groups)中で、浮動株調整後の時価総額で 85% をカバーすることを目標」と記載があります。

つまり、MSCI に採用されるためには、浮動株調整後の時価総額が、最も重要な数値になり、採用数の制限は特に設けていないことが分かります。


・P6, 2-2 浮動株調整後の時価総額

ここで重要な「用語」の説明があります。特に重要なのは FOL(Foreign Ownership Limits)と FIF(Foreign Inclusion Factor) です。

FOL とは、国外の投資家に対して取得制限のある株式の割合です。日本であれば、放送や航空、NTTなどの外国人取得割合が制限されている株が該当します。

FIF とは、浮動株調整に利用される「係数」です。具体的には、「時価総額 X FIF (係数) = 浮動株調整の時価総額」として利用されます。この係数の規定はそう難しくありませんが、FOLがある場合はやや複雑です。
(1)FOL が存在しない場合で、浮動株割合が 15% を超える場合
浮動株割合を端数切り上げ(round up)で、最も近い5%刻みに調整する。
(2)FOL が存在しない場合で、浮動株割合が 15% を切る場合
浮動株割合を端数四捨五入(round)で、最も近い1%刻みに調整する。
(3)FOL が存在する場合
(I) FOL から 外国人が所有する固定株割合を引いたものと、浮動株割合の割合が低いほうを採用する。
(II) FOL から 外国人が所有する固定株割合を引いたものが採用の場合、その割合を端数四捨五入(round)で、最も近い1%刻みに調整する。
(III) 浮動株割合が採用の場合、15%以上であれば、浮動株割合を端数切り上げ(round up)で、最も近い5%刻みに調整する。15%以下であれば、浮動株割合を端数四捨五入(round)で、最も近い1%刻みに調整する。
ポイントとなるのは、浮動株割合が 15% を超える場合、端数切り上げ(round up)になる所です。この切り上げルールによって、MSCIの採用基準をクリアする場合があります。また、FOLが存在する銘柄は、採用基準がかなり窮屈になります。


・P10, 2-3 株式の分類

重要なのは、産業グループ(Industry Groups)についてです。そのグループの中で、浮動株調整後の時価総額の85% をカバーすることが目標だからです。24の産業グループがあることが記載されています。

しかしながら普通、産業グループの中での浮動株調整後の時価総額85%を計算するには手間がかかり過ぎて、ほぼ不可能です。そういった理由から、どちらかと言えば、無視しても良い項目なのかも知れません。


・P11, 2-4 採用基準

MSCIの採用銘柄を予想するにあたっては、理解必須の項目です。単語がたくさん出てくる上に、ちょっと長いですが、しっかりと理解してください。
  • 浮動株調整後の時価総額と流動性を重要視する。この後に紹介する浮動株調整後の時価総額の最低基準に適合しない、もしくは、不十分な流動性の場合には採用しない
  • 浮動株割合が、15%を超えるものだけ、基本的に採用する。
  • 浮動株調整後の時価総額の最低基準については Appendix IV を参照のこと。
  • 流動性については、ATVR(Annualized Traded Value Ratio)を重要視する。
  • ATVR は以下の3ステップによって計算する
    • 最初に月ごとの出来高額(traded value)の中央値を計算する。これは、1日の出来高額の中央値とトレード日数を掛けたものである。1日の出来高額は、その日の出来高数と終値を掛けたものである。1日の出来高額の中央値とは、その月における毎日の出来高額の中央値である。
    • 次に、毎月のATVRとして、毎月の出来高額の中央値を、月末における浮動株調整後の時価総額で割る。
    • 最後に、ATVR として、過去12ヶ月、もしくは計算可能な月数の 毎月のATVR と、月数(12)を掛ける。
  • 採用または除外の基準としての 絶対的な ATVR の最小値、最大値の規定はしない。但し、産業グループや期間での相対的な基準で考慮する。
  • 浮動株割合が15%を超えない銘柄については、特別な事情がない限り、採用しない。その事情とは:
    • MSCI World Index で 10 basis point または、MSCI EM Index で 15 basis point がある
    • その国でのインデックスの 5% がある。
つまりは、「最低限の基準をクリアする浮動株調整後の時価総額」をもち、その「浮動株調整後の時価総額に見合った流動性」を確保し、「浮動株割合が15%を超える」必要があります。


P17, 3 MSCI の維持管理について

銘柄の入れ替え、FIFの変更等についての時期とタイミングについて記載されています。
  • 年に一度の見直し
    • 5月に行う。
    • 産業グループにおける85%ターゲットによる銘柄の入れ替えを行う。
    • Appendix IV に記載されている最新の最低ガイドラインによる銘柄の入れ替えを行う。
    • 浮動株割合が15%以下銘柄を除外する。
    • Appendix V に記載してある FIF の変更を行う。

  • 四半期の見直し
    • 2月、8月、11月に行う。
    • M&A等により、85%ルールに対して著しい(significantly)影響が生じた場合の銘柄の入れ替えを行う。
    • 著しい(significantly)浮動株割合の増減や、すぐに履行されないFOLの増減による銘柄の入れ替えを行う。
    • 早期採用(early inclusion)の最低基準には達しないが、IPO や売り出しにより、時価総額が大きい銘柄を採用する。
    • 産業の代表とはいえなくなった銘柄の差し替えを行う。
    • 浮動株割合が15%以下銘柄の除外を行う。
    • 浮動株調整後の時価総額が小さくなった、または流動性がなくなった銘柄の除外を行う。
    • Appendix V に記載してある FIF の変更を行う。
    • 株数の変更を行う。

  • 随時見直し
    • 株式所有者の変更やFOLの変更などによる FIF の変更を行う。
    • M&A等の企業イベントによる採用を行う。
    • 倒産や、近い将来見込みのないと思われる銘柄の除外を行う。
    • 早期採用(early inclusion)によるもの。FOLの解除やIPOにより、採用基準ガイドラインの4倍の浮動株調整後の時価総額があること。
また、発表時期については以下のガイドラインが記載されています。
  • 5月の場合は、月末最後の営業日の前の2週間以上前に告知する。
  • 四半期の場合、月末最後の営業日の前の2週間以上前に告知する。
  • 随時見直しの場合、インデックスに採用される2週間前以上に告知する。
  • IPOによる早期採用の場合、トレード初日の日より前ではなく、3日目のトレードの始まりより遅くはない時期に告知する。

P30, Appendix II 浮動株定義と見積りのガイドライン

「浮動株」について定義しているのですが、東証のTOPIXで定義する「浮動株」とかなり違います。ポイントを押さえておきましょう。
(1)浮動株に入らないもの
政府、企業、銀行(浮動株に該当する第3者からの信託、および信託銀行の所有は浮動株)、社長や取締役の家族および親類、近親縁者、従業員による保持。
(2)浮動株に入るもの
個人、投資信託、証券会社、年金投信、保険会社(特別ケースも参照)、社会保障(年金基金)投信。
(3)特別ケース
・委任、信託 - 誰が最終的な利益を得る人かによって分類する
・政府関連 - 所有目的によって分類する
・保険会社 - 国によって基準が変わる。日本の場合は5%以上の保持で「浮動株に入らない」ものとする。
・受託 - ADR などは浮動株とする。
・特別インセンティブ - インセンティブが得られるまでの期間は、浮動株に入らない。
・ロックアップ - ロックアップ期間中は、浮動株に入らない。

P43 Appendix IV 最低時価総額ガイドライン

採用・不採用を決める、最重要の数値です。国によってこの数値は変わります。以下における記述は、全て日本の場合です。
  • 採用最低時価総額は USD 900mil
  • 早期採用の場合は、USD 3,600mil
  • 四半期採用の場合は USD 1,800mil (最低時価総額の2倍)
  • 年に1度の見直し時期に、最低時価総額 USD 450mil を切った場合には除外
  • それ以外の時期(四半期見直しの時期等)には、最低時価総額 USD 450mil を著しく下回った場合には除外
  • 四半期でのFIFの変更は、絶対値で0.15以上の違いが出た場合または、浮動株調整後の時価総額 USD 500mil の増減があった場合。

以上で終了です。ここまで読んで下さった方、お疲れ様でした。

ところで結局、これを実践でどう使えば良いのでしょうか。ここ1年の経験から、次のように対応すれば効率が良いようです。

1. IPO銘柄をチェックする
(1)IPO銘柄の浮動株調整後の時価総額が USD 3,600mil を上回る場合
早期採用の可能性が高い。初日または2日目のトレードの後に発表されるはずです。昨年、Jパワー(9513)が該当しました。
(2)IPO銘柄の浮動株調整後の時価総額が USD 1,800mil を上回る場合
四半期のタイミングでの新規採用の可能性が高い。前回、国際石油開発(1604)が該当しました。
(3)IPO銘柄の浮動株調整後の時価総額が USD 900mil を上回る場合
年に一度の見直しのタイミングで新規採用の可能性が高い。
2. 四半期での採用・除外銘柄を推測する
(1)採用銘柄について
四半期での採用基準はかなり高く、IPO銘柄だけに絞っても良いでしょう。株価が倍以上に跳ね上がった銘柄も可能性がありますが、相当まれです。
(2)除外銘柄について
除外銘柄についても、株価が半値以下にでもならない限り、除外されることはありません。無視しても良いかと思います。
3. 年に1度の見直しでの、採用・除外銘柄を推測する
(1)採用銘柄について
かなりの銘柄が採用されます。浮動株調整後の時価総額が USD 900mil を超える場合には、採用される確率が高くなります。条件として、1年以上前の株価より30%以上高くなった銘柄を中心に見ていけば、効率が良いと思います。ただし、流動性をも考慮する必要があります。
(2)除外銘柄について
浮動株調整後の時価総額が USD 450mil を下回る場合には、除外される確率が高くなります。
4. FIFの変更を推測する

FIF で 0.15 以上、もしくは USD 500mil 以上の浮動株の変更があった場合に、FIFの見直しがあります。しなしながら、この情報は、MSCIと契約している企業にしか開示されないので、投資戦略として採用するには、難易度がかなり高いです。

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編集後記(From the Editor)

今週は文書ばかりで、かつ長くなってしまったため、読む方も大変だったかと思います。ここまで読み進んで頂き、ありがとうございます。

本当は解説図も入れたかったのですが、時間がなくなってしまったために、文字ONLYになってしまいました。いつか時間をみて、解説図を追加していけたらと思っています。

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くれぐれも、自己責任の上で判断してくださいね!

GOOD LUCK!


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