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2004/11/14
証券会社の挑発のウラをかく

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事実上の国際標準(デファクト)インデックスとなっている MSCIインデックスの四半期毎の定期見直しが、中央ヨーロッパ時間 11/16日の 10:15pm (日本時間で 11/17日の 6:15am)
に発表されます。
日本国内では、 TOPIX や 日経平均がインデックスとして有名ですが、国際的には
MSCIインデックスの方が有名です。つい先日、Jパワー(電源開発)が、MSCI に採用すると発表した直後から株価が上昇しました。
となれば、TOPIX や 日経平均の銘柄同様に、MSCI に採用される銘柄や除外する銘柄が事前に予想できれば、先回り利益を得る可能性が高くなります。既にロイターや株式新聞社では、予想的なニュースが掲載されています。
そこで今回は、MSCI について研究し、定期見直し候補銘柄について探ることにしましょう。
まずは、MSCI Standard Index Japan について、ここ2年間、入れ替え銘柄がどんなものがあったのか、見てみましょう。
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Q1(2月) |
Q2(5月) |
Q3(8月) |
Q4(11月) |
2004 |
なし |
追加-31銘柄 |
なし |
(今回) |
2003 |
追加-電通 削除-トランスコスモス |
追加-17銘柄 削除-13銘柄 |
追加-セイコーエプソン |
なし |
表から、毎年5月に大幅な入れ替えがあり、その他の四半期では、ほとんど入れ替えがないことが分かります。つまり、今回の11月は、入れ替えが「ない」可能性が高いのです。
では、四半期に見直される基準は何でしょうか? 実は、MSCI の Webページにその指針が載っています。読んでみることにしましょう。
まずは、3.1章(P17) に、5月は年に一度の見直しを行う(Annual Full Country
Index Review in May)ことと、そして、3.2章(P17)に、四半期毎に調整を行うことが記載されています。
一番重要な部分は、Appendix IV (P39-)です。まずは、MSCI の採用基本方針について確認すると、以下の通りです。
- 浮動株調整後の値を使う(The use of free float-adjustment)
- その国の株式時価総額の85%をカバーする(85% of the free floatadjusted market
capitalization)
- 日本(Japan)の場合は、採用の最低限のライン(Minimum Size Threshold for Inclusions
of new securities) の時価総額は、USD 750ミリオンである。
つまり、5月の年に一度の見直しを行う時の基準として、浮動株調整後の時価総額が、USD
750ミリオンを超えない限り、採用されることはありません。
四半期で採用される基準は更に厳しく、最低限ラインの2倍の値(those securities that represent at least two times the minimum size guidelines for inclusion) が必要となります。
つまり、単純化すれば、5月に採用されなかった銘柄の場合、株価が2倍以上に上昇していないと、四半期の見直し時期に採用されることはありません。時価総額も、USD 1,500ミリオン が必要です。
ロイターや株式新聞社で採用候補とニュースになった、KDDI(9433)、スクエア・エニックス(9684) 、キヤノン販売(8060)
は、いずれも5月以降に株価が倍にはなっていませんし、浮動株も増えてもいないようです。
従って、ニュースになった3銘柄が、四半期の見直して採用されることなないでしょう。独自調べにおいて、採用されそうな銘柄として、小野薬品工業(4528)が見つかりましたが、これも株価が倍までは届いていません。
従って、もし 四半期の採用銘柄になるものがあれば、それはIPO(新規上場株)の浮動株調整後の時価総額が
1,500ミリオン(1,600億円程度)を超えたものだけに絞っても良いでしょう。
ところで、浮動株調整後とありますが、その浮動株とは何でしょうか。これについては、Appendix II (P27-) に説明があります。
浮動株として加えないものは
- 政府、企業、銀行、役員およびそれに近い人、従業員(持ち株会) の株
- ロックアップ中の株
です。それ以外は、浮動株と考えて差し支えないでしょう。
話を元に戻して、ここ四半期で大型のIPO は、既にMSCIに採用されたJパワー(電源開発)を除くと、NTT都市開発とエルピーダメモリです。国際石油開発は、ぎりぎり間に合いません。
NTT都市開発の浮動株調整後の時価総額は、NTTによる企業持分が多いため、573億程度と少ないです。エルピーダメモリも、ほとんどの株式が企業による所有なので、新規売り出し分だけを浮動株と計算することにすれば、募集価格通りで 630億程度です。上場後の株価が 2.5倍くらいで初値がつかないとダメですね。
従って、NTT都市開発は確実に採用されません。エルピーダメモリは、募集価格の2.5倍の株価になれば採用候補になりますが、とても期待できないでしょう。
結論1: |
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2004年11月の 四半期定期見直しで、MSCI Standard Index Japan に新規採用される銘柄はない。 |
次に除外銘柄(Minimum Size Guidelines for Deletions)をみていきましょう。
除外銘柄の基準として、5月の場合、「採用基準(USD 750ミリオン)の50%(set at 50% of the eligible
minimum size threshold for inclusions)」となっています。日本円に換算すれば、750
x 105 / 2 = 393.75億円です。
さらに、四半期の定期見直しでは、「著しく採用基準を下回った場合(a security will
be deleted if its free floated-adjusted market capitalization is significantly
below the minimum size guidelines for deletions.)」と記載があります。このことから、めったなことでは除外されません。
MSCI Standard Index Japan で、浮動株調整後の最低ランク3銘柄は、以下の通りです。
銘柄 |
株価(円) |
浮動株数 |
時価総額(円) |
KANEBO |
1128 |
43,590,975.00 |
49,170,619,800 |
SNOW BRAND MILK PRODUCTS |
328 |
137,761,326.60 |
45,185,715,125 |
CAPCOM CO |
915 |
40,904,500.00 |
37,427,617,500 |
このうち、カプコンだけが、採用基準の 50% (393.75億円)を割っています。しかしながら、「著しく採用基準を下回った」とは言いにくいでしょう。
従って、ロイターや株式新聞社のニュースで除外候補となっていた、「カネボウ」や「カプコン」については、これからよほど株価が下降しない限り、除外されることはないでしょう。
結論2: |
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2004年11月の 四半期定期見直しで、MSCI Standard Index Japan で、除外される銘柄はない。
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ここで、まだ忘れていることがあります。そう、浮動株の割合が変更になった場合です。
既に採用銘柄となっていたものが、浮動株の調整を行う場合も、四半期毎のタイミングで行われます。つまり、浮動株の増減によって、その銘柄の組み入れ率が変わってくるのです。
その変更基準は、四半期の場合は、浮動株割合の15%の変更(The absolute sizeof the FIF change is 0.15) または、USD 500ミリオン(500 mm for securities classified)です。株式所有者の移動や、転換社債等での転換分が該当します。
ここで思い出されるのは、武富士(8564)からの所有者移転のアナウンスです。 すでに 6%にあたる800万株が売却済みで、更に18%程が売却するために預託済みで、更に12%を預託予定であることを発表しています。
売却済みの 800万株は浮動株になったと見て良いでしょう。総額では、800万 x
6450 /105 = USD 451ミリオン で、ぎりぎり調整に該当しません。しかしながら、預託済みの18%は、どう考えるべきでしょうか。
ガイドラインには、最終的に利益を得る所有者の身元により、浮動株か否か判断されると記載されています(Shareholdings
registered in the name of a nominee or trustee are classified as strategic
or non-strategic based on an analysis of who the ultimate beneficial owner
of the shares is, according to the shareholder types described above.)。
ここで難しいのは、利益を得る所有者(benefical owner)の定義がないのです。場合によっては、この18%が、浮動株と MSCI に認められ、四半期定期見直しの対象になる可能性があります。
結論3: |
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2004年11月の 四半期定期見直しで、MSCI Standard Index Japan で、浮動株調整を行う銘柄はなさそう。ただし、武富士(8564)は、場合によっては調整が行われる。 |
最終結論: |
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四半期定期見直しで、採用銘柄および除外銘柄が出る可能性は非常に低い。ニュース記事によって売買するのは非常に危険である。証券会社の挑発に乗らぬように。 |
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逆に、証券会社の裏を取り、MSCI発表前日に、採用が騒がれた銘柄を売って、失望売りを待って買い戻す、除外が騒がれた銘柄を買って、見直し買いを待って売るといった戦略が有効であろう。 |
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大穴狙いで、武富士がある。事前にほとんど取り上げられていない銘柄のため、浮動株調整が入った場合には、サプライズ上昇もありうる。 |
証券会社は、株が活発に売買されれば良いので、MSCI のガイドラインをを無視して、売買するようにニュースリークによって、一般投資家を挑発します。我々は、それに乗ることはなく、そのウラを取るのが賢い戦略です。
くれぐれも、自己責任の上で判断してくださいね!
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編集後記(From the Editor)
ロイターや株式新聞社は、証券会社の人の話をそのまま掲載し、ニュースにしたのでしょうが、ガイドラインをしっかり読んでいれば、あんなふうな記事にはしなかったのではないかと思います。
このニュースを読んで、試そうと思っている人が気の毒です。そのお陰で、我々が先回り投資をできるのですけどね。「無知は高くつく」ことをあらためて知らされました。
また、前回の MSCB の掲載の時に、結構反響があったのでびっくりしました。メールを送っていただいた方、ありがとうございます。皆様の意見を取り入れつつ、成長できたらと思っています。
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GOOD LUCK!

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