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MSCB

2005/8/7
MSCB銘柄の傾向と対策(2005年夏)

以前のMSCBの発行目的については、「倒産しないための最後の手段としての資金調達」だったのですが、今年初めの「フジテレビ」及び「ライブドア」の発行以降、「企業戦略に利用するための資金調達」へと、明らかにシフトしました。

しかしながら、投資家には「ライブドア」のトラウマが色濃く残っているのか、「MSCB発行」との発表を行った翌日は、その企業の株価は暴落することが多いようです。

そこで今回は、MSCBの発行意義については一旦脇に置いて、MSCBによって引き起こされる株価の変動について、過去のトラウマを振り切り、逆にこられを上手く利用し、利益を生み出す方法が無いものか、探って見ることにします。

今回の調査対象は、「ライブドア」の影響が落ち着いてきたと思われる、今年の4月から7月末までに、月に1度以上「転換価額」が変わるようなMSCBを「適時開示情報閲覧サービス」にて発表した29社について調査してみました。

まずは「MSCB発行」発表直後の動きを見てみましょう。MSCB発行発表日を基準とした終値の推移を見てみます。場中に発表した企業(矢作建設工、エス・バイ・エル)の場合は、その発表日前日を基準とします。

また、市場の影響を排除するため、東証・大証1部の伝統市場銘柄についてはTOPIXで、それ以外の新興市場銘柄については、JASDAQ平均で差分調整しています。

では早速、全体平均と、伝統市場銘柄、新興市場銘柄についてグラフ化してみます。



やはり発表直後は、かなりの下落が引き起こされます。特に新興市場銘柄は、その割合が大きくなっています。その後、伝統市場銘柄は横ばい、新興市場は逆に復活上昇の傾向が発生しています。

更にもっと様々な角度からも見てみましょう。銘柄の「信用区分」によっても値動きが違うのか、グラフにしてみます。ここのでの「信用区分」とは、制度信用での区分です。



結構はっきり分かれます。サンプル数が少ないため安定しませんが、「貸借銘柄」は横ばい、「信用銘柄」は急落から、しばらく経って上昇傾向、「信用外銘柄」は一旦下落し、そこから上昇が起きて、更に下落と、めまぐるしく動いています。

次にMSCBの割当(引き受け)別に見てみましょう。「外資系」と「国内系」の場合と、それぞれ各個別企業別です。




以前であれば、「外資系」なら「危険」のイメージがあったのですが、最近ではその逆です。国内系の方が、株価が低迷しています。

次に、株式の希薄割合別に見てみます。これは、MSCBを、発表当初の転換価額で全株式に転換した場合、発行済み株式数のどの程度の割合になるかで区分したものです。


やはり 20% を超えるような希薄化が起きることがわかると、翌日はパニック売り状態になりますが、やがて落ち着きを取り戻します。一方で、意外なのは 10%以下の銘柄です。緩やかに下げ止まらずに推移します。

最後に、「売却制限」がある銘柄と無い銘柄について見てみます。今回調査中4銘柄(エムピテクノロジーズ、ジャック・ホールディングス、アイ・シー・エフ、アドミラルシステム)について、「本新株予約権付社債の割当先である○○証券は、本新株予約権付社債の転換を前提としたつなぎ売り及びヘッジ取引以外の空売りを行わないことになっております」といった「売却制限」がありました。

以前は、「MSCB自体の譲渡制限」の条項をつけている場合があったのですが、それより一歩踏み込んで、「無茶売りしません」といった約束を取り付けた条項です。「つなぎ売り」を許しているので、あまり効果が無いように思えますが、既存株主にとっては、多少の安心感が生まれる可能性があります。


かなりの違いが見られます。発表日翌日の下落は一緒ですが、そこから「制限あり」の場合は復活度が高くなります。ただし、4銘柄だけですので、サンプル数からは多少信頼度は落ちます。事実、アドミラルシステムは、あまり上昇していません。

因みに、今回調査の29銘柄について、悪名高き「貸株条項」となる、大株主の株を貸す契約をしている企業は1社もありませんでした。

事実1(発表日以降の株価について):
新興市場銘柄について、発表日直後のパニック売りは存在するが、それ以降はじわじわと上昇傾向にある。伝統市場銘柄は、パニック売りの程度は低いが、その後じわじわ下落傾向となる。
信用銘柄について、発表日直後にパニック売りが最も出るが、しばらく横ばいの後に上昇傾向となる。貸借銘柄については、じわじわ下落傾向となる。
MSCBの割当(引き受け)先が外資系である方が、上昇傾向となる。
株式の希薄度が20%を超えると、パニック売りを起こしやすい。
売却制限をつけた銘柄については、発表日の翌日は下落するものの、その後株価は復活する。

なぜこういった傾向が生まれるのでしょうか。発表日翌日のパニック売りは、やはり「ライブドア」のトラウマが今も残っているためではないかと思います。

また、「新興市場銘柄と信用銘柄の動き」が似て、「伝統市場銘柄と貸借銘柄の動き」が似ているのは、両者が同じ銘柄になる(伝統市場銘柄は、大抵、貸借銘柄に指定されている)ためと思われます。

そして、外資系ヘッジファンドを除けば、外資系であろうが、国内系であろうが、無茶な売り方はしなくなったため、意外と安定感のある値動きになっているのではないかと想像します。


次に、最初の転換価額修正算出期間の前日を基準とした終値の推移を見てみます。転換価額修正算出日に狙いをつけて、割当企業の「売り」が活発化するかもしれないと予想できるためです。

ほとんどの銘柄が、3日間または5日間が転換価額修正算出期間となります。従って、グラフ上、「0-2」または「0-4」の期間の株価が下落していれば、割当企業としては嬉しい状況です。

では早速、全体平均と、伝統市場銘柄、新興市場銘柄についてグラフ化してみます。発表日のグラフ同様、29銘柄を対象にしたい所ですが、まだ転換価額修正算出期間に達しない6銘柄がありますので、残りの23銘柄で調査します。


最初の転換価額修正算出日近辺では、ほとんど株価に動きがありません。修正日が終わった5日目以降に、新興銘柄は上昇しています。

次に銘柄の「信用区分」によっても値動きが違うのか、グラフにしてみます。


信用銘柄だけは上昇傾向です。MSCBの発表日翌日以降、信用銘柄は急落傾向にあったのですが、その分を取り戻す動きです。

次にMSCBの割当(引き受け)別に見てみましょう。「外資系」と「国内系」の場合と、それぞれ各個別企業別です。



やはり国内系は全体的に元気がありません。もう「外資だから危ない」というのは、事実と違います。

次に、株式の希薄割合別に見てみます。


動きがばらばらです。狭い範囲内で推移しているため、あまり希薄化割合については意識しなくても良さそうです。

最後に、「売却制限」がある銘柄と無い銘柄について見てみます。


売却制限がある銘柄は、上昇傾向にあり、それ以外の銘柄については全く動きがありません。

事実2(初回の転換価額「修正算出日」以降の株価について):
修正算出日の数日前から期間中までは、株価の値動きがほとんどない。しかし、期間終了後は、新興市場銘柄は上昇傾向にあり、伝統市場銘柄はじわじわ下落傾向となる。
信用銘柄について、期間終了後あたりから上昇傾向となり、貸借銘柄については、じわじわ下落傾向となる。
MSCBの割当(引き受け)先が外資系である方が、上昇傾向となる。
株式の希薄度による、はっきりとした傾向は出ない。
売却制限をつけた銘柄については、上昇傾向となる。

以上の事実から、全体としての結論を導いて見ます。

結論:
MSCB発表翌日以降の「パニック売り」からの復活はねらい目。特に新興市場で希薄度が大きいものについては、パニック売りの度合いが大きいため、より大きく復活する可能性がある。
割当(引き受け)先が「外資系」であっても、得体の知れないヘッジファンドでなければ、特に売り込まれる傾向は無い。
信用銘柄について、初回の修正算出日期間が終了後に上昇傾向となるため、これを狙うのも良い。
「売却制限」のついた銘柄については、発表日翌日に下落するものの、それ以降は上昇傾向にあるため、これを狙うのも良い。

下落傾向にある銘柄について、「信用売り」も可能なようにも思えますが、あまりにも下落幅が小さいため、試す価値はほとんどないと思います。

従って、MSCBについては、「売り」を狙うのではなく、「買い」を狙う方が賢いようです。

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編集後記(From the Editor)

MSCBの発行の目的が変わったとはいえ、常に割引価格で株式交換できる特典を割当先に与え、1株あたりの利益を希薄化させます。既存株主の犠牲の上に成り立っていることには、変わりはありません。市場健全化の観点からも、やはりMSCBは、安易に発行してほしくはないものです。

MSCB銘柄の株価の動きを見る限り、「ひどい売り方」はほとんどなくなりました。割当先は、割引価格と市場価格の差分を、ゆっくりと得ているようです。

もし所持している銘柄が運悪くMSCBの発行発表を行っても、反射的に「売り」ではなく、条件を良く見て、「売るかどうか」を決めるのが良さそうです。

参考までに、今回利用した全銘柄についてデータを公開します。ここに掲載されず、いろいろと調べたデータも残っています。

各銘柄によって随分動きが違うのが分かるかと思います。ご自由にお使い下さいませ。私のグラフが間違っている点等ありましたら、ご指摘頂けると嬉しいです。

MSCB銘柄の推移(2005夏号)

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くれぐれも、自己責任の上で判断してくださいね!
GOOD LUCK!


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